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書家 渡部裕子

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2007/09/21
書家 渡部裕子
名古屋を拠点に、海外などへも精力的な活動を続ける書家の渡部裕子インタビュー
古典を学び、師はつくらず、自分の書を生み出す「書家」
書家 渡部裕子

生命的なエネルギーに満ちていて、なんだか怖いくらいの「書」。これらの作品を創造しているのが、名古屋を拠点に精力的な活動を続ける書家の渡部裕子さん。こんな作品を紙に叩きつけているのはどんな人なんだろう…。好奇心の虫がうずうす騒ぎだし、中国旅行から帰ったばかりの渡部さんの元に押し掛け取材してきました!

― 今日はよろしくおねがいします。えーと、渡部さんは書道家ということで…。

【渡部】 あーいえいえ。書道家ではないんです。私は、書道というものは「書の習得を通じて人間形成をはかり、流派の中で切磋琢磨する。」という意味だと思っています。古典を学び、師はつくらず、自分の書を生み出すというスタイルは、書道家とは一線を画しているつもりです。「書家」でお願いします。

― 了解しました!それでは書家の渡部さん。本日はよろしくお願いします。

【渡部】 はい。よろしくお願いします。

― まずは渡部さんと「書」との出会いから教えていただけますか。

【渡部】 きっかけは8歳の頃から通っていた習字教室でしたね。筆で文字を書くことは、その頃からずっと好きでした。ただ、大学に入って書道を専門的に学んだのですが、そこでは師の書は絶対であり、師の書風の伝授場所でした。自分の書きたいように書くとすべて直されてしまうんです。書道、という意味をもってしては、当たり前のことなのですが。

― お手本通りに書かされる、ということですか。

【渡部】 ええ…もっと自由に、自分の感情のおもむくままに、私そのものを表現するための書が書きたいという欲求がありましたね。その頃は。

― それが書家を目指すキッカケになったんですか。

【渡部】 いえいえ。大学を卒業してからは一旦、書とは関係のない仕事に就きました。いまから10年前、ご縁がある方からお仕事として「書文字」の制作(しゃぶしゃぶ木曽路のDMに使用する書文字一式)を依頼されたんです。その仕事を通じて、「ああ自分はやっぱり文字を書くことが好きなんだなぁ」と再認識しました。

― 「書くこと」の魅力を再発見したわけですね。

【渡部】 そうですね。趣味として書くのもいいけれど、プロとして書と関われることが嬉しかったですね。それ以来、インテリアデザイナーから飲食店に飾る書を頼まれたり、ハーレーダビットソンのカスタムバイク展示会ディスプレイのために巨大書を提供したり…生き生きと書かせていただけるお仕事に恵まれましたね。それ以来、どんどん大きな作品を創っていきたいという欲求が高まってきました。

クリマではインスパイアされた感情を自らのテーマに立体書道を展示
書家 渡部裕子
― クリエーターズマーケットでは書道紙を貼った白いダンボールに書をしたため、次々と積み上げていくというパフォーマンスをされたそうですが…。

【渡部】 やりましたねー。実は最初は「やりたくない」ってお断りしたんですよ。あまりショウアップして書くということに意味が見いだせなくて。でも主催者の方の「誰だって作品ができあがる過程には単純に興味があるでしょ」という考え方に共感して…それでお話をお受けしたんです。あまりの反響の大きさにびっくりしました。

―ダンボールが舞台の上にどんどん積まれていく様子は、さぞ壮観だったでしょうね。

【渡部】 この立体書道の展示は、長崎に軍艦島を観に行った時にインスパイアされた感情を自らのテーマにしたんです。廃墟としてのコンクリート建築が乱立しているあの圧倒的、かつ退廃的な感じを表現できたかな、と思っています。

― へぇ。随分カオスなモチーフですね。ちょっと意外かも。

【渡部】 混沌としてみえる場所や、無秩序なモノのなかに潜む美しさにとても惹かれるんです。先日も中国の厦門(アモイ)という所にあるコロンス島に行ってきたのですが、そこは明の時代、中国との貿易に群がった列強諸国が次々に領事館を建て、のちすぐにその場所を去ったいわば「夢の跡」。財を成した外国人たちや華僑が建てた豪華な建築物か朽ちているその様子。このイメージもいつか書に反映させるつもりでいます。

― 「書」というのは、ある意味渡部さんが感じたイメージの再現、ということなんですか。

【渡部】 ええ、そうとも言えます。でもそれが受け手に正確に伝わる必要はないと思っています。私の書を見て、何と書いてあるかを確認・認識せず、自分から湧き出るイメージだけを大切にされる方もいらっしゃる。それはそれでとても嬉しいですし、興味深いことです。

文字を書くという行為だけで、人の感情を揺さぶる
書家 渡部裕子
― これは個人的に是非おうかがいしたかったのですが、渡部さんの頭には書く前から完成型のイメージが明確に存在しているのですか。

【渡部】 はい。こういう作品にしたい!というイメージは必ず頭にありますよ。あるのですがそれは、紙にひと筆下ろした時点で、私の意思とは別のところで全てが決定されます。その完成形の「イメージ」と「意思」と「何らかの見えない力」が全て重なって現れたとき、私にとっての完璧な作品となるんです。
ただし、うまく表現できないというもどかしさや、苦しさもありますね。

― ほうほう。お手本はないけれど、形にしたいイメージは明確、ということなんですか。

【渡部】 そうですそうです。文字ってすごく雄弁だと思うんです。目に見えないものでも、文字にするとそれがどんなものか感覚的にきちんと伝わる。完璧な作品であれば、その人が言葉では言い表わせないとしても、ちゃんと伝わります。
例えば私がよくモチーフにする「風」という字もそうです。
実は今年の5月にシアトルで開かれた「ノースウェスト・フォークライフ」という音とアートのイベントで、「風」という字だけをひたすら書き続けるというライブをしたんです。

― へええ。もちろんお客さんはアメリカの方が中心ですよね。

【渡部】 そうですね、日本の方はほとんどいません。はじめに、今から書くのは「風」という漢字で、これはこういう意味だ、ということだけご説明しましたが、あとはアコースティックのギターを激しく奏でてもらいながら、いろんなイメージの「風」を、ただただ書き続けていきました。観客のみなさんは、書き続かれる文字と音を全身で感じ、どこか遠くに来てしまったような、呆然とした表情を浮かべていました。文字を書くという行為だけで、人の感情を揺さぶることができる、そう確信した瞬間です。そのあとに別の部屋で行ったワークショップには、70人くらいの方にご参加いただきました。

― 70人ですか!それはすごいですね。どんな内容のワークショップだったんですか。

【渡部】 まず楷書の「空」という字を練習してもらって、その後「空」を自由な意思を込めて書いてもらいました。面白かったのは、日本人に同じことを言えば、どんなに字を崩して書いても、無意識のうちに書き順を守ってしまうのですが、向こうの方々は書き順という概念がない。「゛」からかいたり、ハネる先から書き始める方もいる。一応、初めにこういう順序で書くんだよ、とは説明したんですが(笑)。

― 漢字を図形として捉えているんでしょうか。

【渡部】 小学校の習字の授業でも、子どもたちにお手本なしで自由に書かせたらきっと何事にも囚われない面白い作品ができあがると思いますよ。もちろん基本は大切ですが、基本から応用にうつるときに、楽しさを実感させなければ「習字ってつまらない」ままで終わってしまいます。事実、日本人のほぼ全員が書道教育を受けているのに、続けている方はとても少ないですよね。こんなに身近で、楽しく自己表現できる芸術を、みんなにもっと知ってもらって、自己の開放とでも言うのかな、奥底に眠る知らない自分を発見してもらいたいですね。

書が飾られない場所に、一つの「気」を持つ個体として必要とされたい
書家 渡部裕子
― さてそろそろインタビューも終わりに近づいていますが、渡部さんの今度の目標などあれば聞かせてください。

【渡部】 是非、今以上に海外で活動してみたいですね。外国での個展も然りですが、普通に考えると書が飾られないような場所に、一つの「気」を持つ個体として、必要とされて作品制作を依頼されたいですね。例えばオペラの会場に、例えばニューヨークのスノッブなバーに、カトリックの教会に、戦争をする国におかれる基地に。その書が発する「気」をもって、置かれる空間に存在する人々の心を揺さぶり、なにかが変化するきっかけのための芸術として必要とされたいと思っています。

― 「和」テイストだからではなく、単体の作品として評価されたい、ということですか。

【渡部】 もちろんその通りです!ま、ニューヨークのバーに置かれたあかつきには、飛行機でおもむろに飲みに行きますけどね。お酒は必須です(笑)。
あと、瞬間に「気」をこめる、という意味では写真がとても性に合っているので、書と写真を組み合わせた芸術作品にも挑戦してみたいですね。自分の中でぶつかり合う二つの手法を完璧にどうまとめるか。考えただけでも、ワクワクしてきます!

― なるほど!ご活躍を期待しています。

【渡部】 ありがとうございました。

実際お目にかかった渡部さんは、作品のイメージとは似つかない明快で小柄な女性でした。けれど、お話を伺っているうち、次第に作品のイメージと渡部さんの思いが重なってくるような気がしました。作品に懸ける情熱と「書」が好きだという思い、それが渡部さんの作品から溢れる力になっているのでしょう。

(Interview:かすやかずのり)
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書家 渡部裕子

書家 渡部裕子

名古屋市在住。1978年より書を始め、1996年よりフリーで書文字に携わる活動を開始。下呂温泉「水明館」web、国土交通省DVD未知普請タイトル文字、スロットマシン破壊王、しゃぶしゃぶ木曽路DMタイトルロゴ等の商業用書文字デザインから、岐阜「馬喰一代」、尾張旭・東海市の「はな牛」等の店舗インテリアディスプレイ用の書、また、個人宅インテリア用アート書などを手掛ける。
2005年にクリエイターズマーケットの招待アーティストとして、ライブ書&巨大書の展示をしたことを皮切りに、近年は白い立体物の物の側面に書いて見せる立体書道の展示も行う。
最近では、ラシック1階での巨大書の展示や、2007年春アメリカのシアトルでの一大イベント「NORTHWEST FORKLIFE」にて、ライブ書および外国人の方々とともに書のワークショップを実施。
『絵のような文字のようなという次元ではなく、その枠を越えた、見た瞬間のその心で感じるための【書】の制作をしています。心にズンと響く音楽や、胸に突き刺さる一枚の絵があるように、私の書くものがみなさんの“内なる何か”に触れますよう。』

HP: http://needle2.sub.jp